「芽、さま……?」
確かめるように名前を呼んだ。
「俺以外に誰に見えたの? 真言は面白いね」
ふふ、と肩を竦めて笑った芽さまは、振り返って燃え盛る宝物殿を眺める。
「よかった、宝物殿に真言がいたらどうしようって思ってたんだ。お前には世話になったから、逃がしてやろうと思って」
何を、言っているんだ? 芽さまは一体何を? いや違う、この男は誰だ? この男は芽さまではない。別の誰かだ。だって芽さまがこんなことを。
「おじいさまたちは母屋かな? 先に殺そうと思ったんだけれど、どこにもいらっしゃらないからさ」
まるで天気の話でもするように、その男は笑いながら尋ねた。
訳が分からない。分かりたくもない。
一体自分の目の前で、何が起きているんだ。
男の手に刀が握られている事に気付いた。宝物殿の中でも厳重に保管されている刀剣、三種の神器のひとつ、國舘剣。
鞘からぬらりと光る刀身が現れた。投げ捨てられた鞘が地面を転がる。
男が僅かにこちらを見た。
「じゃあね、真言」
昔の記憶が脳裏を駆け巡る。小さな手が必死に私に伸ばされる景色だ。真言真言、と私を慕う小さな手、我儘に膨らむ頬、愛おしさが詰まった額、私を信頼する瞳。
どれほど辛くても、必死に涙をこらえて笑う子供だった。
あの頃の顔に重なって見えた。
この男は、まだ芽さまだ。



