キィンと耳鳴りがして音が遠くに聞こえる。「真言さん! 真言さん!」と私の肩を揺する若い禰宜。咄嗟に彼に張った結界は間に合ったらしい。
軽く頭を振りながら、手を借りて立ち上がる。点滅する視界がゆっくりと定まり始め、こめかみを押えながら社務所の外に出た。
次の瞬間、強烈な熱気が顔中に纏わりつき、熱風が喉から肺を焼き尽くす。咄嗟に顔を隠す。
袖の向こうに広がる真っ赤な炎に言葉を失った。
「禰宜頭……! 宝物殿がッ!」
御神木を挟んで社務所とは対面にある宝物殿は、他の社とは違って神職以外の妖や人間でも入れるように常時解放されている。隆永さまの結界術によって厳重に守られているからだ。
その宝物殿が、真っ赤な炎に包み込まれている。
天井が音を立てて崩れ落ちた。高音で木々が爆ぜる音が響き渡る。
「こ、これはどういう……」
「真言」
真横から声が聞こえた。今聞こえるはずのない慣れ親しんだ声だった。
弾けるように振り返る。
目が合った。息が止まる。頭が目の前の情報に追いつかない。
「ただいま、真言」
目を細め微笑むその男。
きらきらと目を輝かせて己を見つめていた瞳は、光を失い絶望と不信の色で深い闇を作る。知っているはずなのに、そこに立っているのは私の知らない人間だった。



