言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー



「真言、見ろ」


真ん中に芯が通った声だった。これまでの、まるで魂が抜けたかのようにただぼんやりと宙を眺めていた隆永さまはそこにはいない。

隆永さまの指先が頭上を示した。つられるように顔を上げ────息が止まった。

透明な水に墨汁を落としたような線が、空に何十何百と走っている。まるでしなだれ柳が風でなびくように、北東の空を中心におびただしい数の線が空に浮かんでいる。

見ているだけで身の毛もよだつようなこの感覚、間違いなくあれは。


「なんだ、あれ……」

「真言。今すぐ本庁に連絡して確認してくれ。悪い予感がする」


神職の勘は当たる、と昔からよく言われている。とりわけ隆永さまの勘は良く当たった。

空を睨み続ける隆永さまに一抹の不安を覚えながらも、急いで社務所に戻って本庁へ電話をかけた。

何度かかけ直してみたけれど、どうやらあちら側の神職たちも異変に気付いて混乱しているらしい。5度かけても繋がらず、仕方なく諦め受話器を置いた。

あれは一体なんだ?

北東の空、鬼門の方角だった。飛行機雲のように尾びれを残して空を横切る黒い線、あれは残穢だ。

でもあんな残穢はこれまでに一度も見た事がない。まるで打ち上げられた花火が飛び散るように空に拡がっていた。


もう一度外に出る。隆永さまはまだ空を見上げている。隣に並んだ。残穢は先程よりも広がっているように見えた。