そこまで言いかけて口を閉じた芽さまは、キュッと唇をすぼめるとまたテーブルに顔を伏せてしまわれた。
隆永さまは、あの日からずっと時が止まったかのように抜け殻の状態で過ごしている。日々の奉仕や祓除もお祓いもこれまで通り問題なくこなしているけれど、そこには"隆永さまの意思"がない。
決められたことを淡々とこなしていくだけで、隆永さまの感情は何一つ感じられない。
それほど失ったものが大きいのだ。それほど隆永さまにとって幸さまは、なくてはならない存在だったのだ。
そんな状態の父親に、芽さまもどう接したら良いのか戸惑っているらしい。
それに加え社内はふたつの派閥に分裂し、隆永さまの失墜を企み芽さまを宮司代理に押し上げようとしている者たちがいる。
心休まるはずのご実家で悪意と偽物の善意に当てられ続ける日々は、まだ未成年の彼にとって耐え難いものだろう。
人間って自分勝手な生き物だよね、以前苦しそうな横顔で芽さまはそう零した。それが彼の全てなのだろう。



