後から聞いた話では、幸さまは呪が暴走した薫さまをお止めするために、私たちですら怯むようなあの中へ迷わず飛び込まれたらしい。
薫さまが唱えのは祈雨祝詞。上手く奏上出来れば数時間小雨が降る程度の祝詞だ。薫さまの呪は私たちにはもう止めることが出来ないほどの大きな力になっていた。
だからこそ、禄輪が薫さまを引き取りたいと申し出てた時は、どこか心の底でホッとしていた。
薫さまが社から去り、隆永さまはまるで魂が抜き取られたかのようにただ淡々と奉仕をこなす日々。まるで春を失ったかのように、社はどこかもの寂しく底冷えするような冷たい空気が漂っていた。
芽さまもかなり気落ちした様子を見せていたけれど、御学友に恵まれたらしい。冬休みで寮からお戻りになられた時には、ほんの少しだけ笑顔を見せるようになっていた。
けれども以前のような無邪気な笑顔はない。癒えない傷を抱えながら過ごす日々はそれから長らく続いた。
あれは芽さまが中学二年生になられた頃だったか。
すっかり大人びた顔をするようになり、昔のように天真爛漫な笑みを見せることもなくなったある日、ちょうど夏休みが始まり社へと帰ってきた芽さまは、珍しくドタバタと足音を立てて社務所へ飛び込んできた。
自分の姿を見つけると、小さかった頃に「稽古をつけてくれ」と私に飛び付いてきた時と同じ満面の笑みで駆け寄ってくる。
「真言! 真言聞いて! ビッグニュースだよ!」



