芯の通った声に名前を呼ばれ反射的に頷いた。
次の瞬間、幸さまは私を押しのけて濡れ縁から飛び降りて走り出す。
産後の回復が芳しくなく毎日ほぼ寝たきりな状態だったとは思えないほどの勢いでどんどん離れから遠ざかっていく。
「幸さま! お待ちください幸さまッ!」
私が幸さまに追いついた頃には、もう全てが手遅れだった。
暴走した祝詞、崩壊しかけた道場、中で渦巻く圧倒的な力に、宮司以外誰も傍へ近付くことが出来ない。誰もがただただ呆然と立ちすくみ、激しく軋む道場を呆然と見上げた。
やがて、吹き荒れる嵐の轟音がピタリとやんだ瞬間、そのあまりの静寂さに体の芯が震えた。誰もがその場に杭を打たれたように棒立ちになる中、身を切り裂くような慟哭が静寂を貫いた。
頬を叩かれたように我に返った。歪んだ扉をこじ開けて中へ飛び込む。
中心に踞る人影がある。まるで獣が吠えるような嗚咽と叫び。その傍には双子たちが青い顔をして立ち尽くしていた。
その隙間から青白い細腕が見えた。生気を感じさせない人形のような腕だ。だらりと垂れ下がり少しも動かない。
その日、幸さまがお亡くなりになって、わくたかむの社は────この家族は、何もかも変わってしまった。



