20年前、夏。

その日自分は夜番で、社務所内で数人の神職たちとともに書類仕事を片付けていた。

夜空には欠けたところがひとつも無い見事な満月が出ていた。

若い巫女助勤たちが代わる代わる月を見上げに外に出ている姿が微笑ましく、珍しく揉め事で駆り出されることも祓除の依頼もなかったのでほかの神職たちと雑談しながら静かな夜を過ごしていた。

あれは23時を少し過ぎた頃だったか。

ドォンッ────と、腹の底に響くような爆発音とともに、足裏全体をしびれさせるほどの衝撃を感じた。

机の上に置いてあった湯呑みが跳ねて物が倒れる。巫女たちの悲鳴が響き、私自身も驚きでその場に固まった。

すぐさま社務所を飛び出すと、社頭は混乱する妖たちで溢れていた。ふと、やけに外が薄暗いことに気がつき空を見上げる。


「なんだ、これ……」


まるで龍が空を旋回するように夜空には分厚い雲が広がり渦を巻いている。


「禰宜頭!」


母屋から飛び出してきた巫女頭が、血相を変えて自分の元へと走ってくる。


「禰宜頭ッ、大変です! お部屋に芽さまがいらっしゃいません!」

「なんだって!? 9時頃にはお休みになっていたはずだろう!」

「それが、音がした時ちょうどお部屋の前を通ったのでお声掛けしたのですが見当たらず……」


白い顔をもっと白くした巫女頭と母屋に飛び込む。全ての部屋を引っくり返すように探したが、芽さまの姿はどこにもない。

とりあえず外の状況の把握と隆永さまへ報告を、そう思って外に飛び出すと、ちょうど離れへ休みに行っていた隆永さまが騒ぎを聞きつけ戻ってきていた。