(さち)さん、清志さんの亡くなった娘。

そして、薫先生のお母さん。


「私がもっと、薫さまのことをよく見て差し上げていればこんなことにはならなかった。幸さまがお亡くなりになった時、薫さまに"あなたのせいではない"と一言でもお声がけしていれば、薫さまがこの家を出ていくことも、隆永(りゅうえい)さまが追い詰められるようなことにもならなかったんだ」


膝の上に置かれた拳が震えている。口調は穏やかだけれど、その裏にある激情は隠しきれていなかった。

ゆっくりと口を開いた権宮司は、記憶を遡り始める。

亡くなった幸さん、行方不明の宮司、離反した双子の兄、呪しか持ち合わせていない弟。この神々廻(ししべ)家に何があったのかを語り始めた。