言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー


たしかに権宮司くらいの役職の人なら、薫先生が子供の頃もそれなりの役職に就いていただろうし内部事情にも精通しているはずだ。

慣れた様子で玄関横の電源を入れた権宮司は、雪駄を揃えて脱ぐとまっすぐ廊下を進んでいく。

キシキシと音を立てる床板。廊下はひんやりしていて、やはりどこか物寂しい。


「まったく……いくら倉庫とはいえこんなに散らかして。巫寿さん、足元(あしもと)気を付けて」


廊下の隅に適当に積み上げられたダンボールや木箱に顔を顰めた権宮司。どうしても我慢できなかったのか立ち止まって整え始める。

隣に腰を下ろしそれを手伝う。そこでふと、柱に刻まれた横線に気が付く。西暦と月日が記されたそれは、おそらく誰かが誰かの成長を記録したものだ。


「ここ……薫先生が暮らしていた場所なんですか?」


ピタリと手を止めた権宮司。手にしていた風呂敷をじっと見つめている。


「そうだ。この場所は薫さまが生まれてからこの家を出る九歳まで、お母様とお過ごしになった場所だ」


やっぱりここは薫先生が幼少期に過ごした場所なんだ。

あれ、でも今九歳までって……。その後薫先生は別の場所で過ごしたということ?


「長くなるから、まずは部屋を暖かくしてお茶を淹れようか」


権宮司が立ち上がる。

激しい後悔の色が滲んだ瞳で、私を見下ろして微笑んだ。