言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー


本殿から一番離れた、鎮守の森の奥にひっそりと佇む古びた建物。洗練された社頭の建物とは違って最低限の手入れしかされていないそこは、使う人間がいなくなってからは倉庫代わりになっていたらしい。

生い茂る木々が月明かりを塞ぎ、鼻先がわずかに見える程度の真っ暗闇を進むと、暗闇の先にぼんやりとその建物が現れた。

(くゆる)先生が幼少期を過ごした、他とは切り離された異質な場所。


「巫寿さん」


玄関前に立っていた人物が私に気付き手を挙げた。小さく頭を下げ小走りで駆け寄る。


「お待たせしました、真言(まこと)権宮司」

「変な時間に呼び出してしまってすまないね。時間を取れたのが今日だけだったんだ。(もも)くんに頼まれてから、かなり時間が空いてしまったが」


目尻の皺をより一層深くして微笑んだ権宮司は、入ろうかと離の扉に手をかける。

やっぱりその件だったか、と小さく息を飲んだ。


あれは神社実習が始まって一週間ほど過ぎた頃だった。

かむくらの神職で今はわくたかむの社で奉仕している(もも)さんと食堂で喋った時、神々廻(ししべ)(めぐむ)の話題になったことがあった。

『私より詳しい人がいるから、その人に話つけたげる。話してくれるか分かんないけど、芽のことを知りたいならその人から聞きな』

詳しい人というのは真言権宮司のことだったらしい。