禄輪さんから聞いた通り、この場所は「かむくらの屯所」と呼ばれる場所らしい。

先の戦いでかむくらの神職達が活動していた際に使っていた活動拠点なのだとか。かむくらの神職は一番多い時期で三十人ほど所属していたらしく、その全員が宿泊できる設備が整えられている。

重要拠点であることから空亡側に組みした悪意ある妖たちに何度も襲撃され、その度に拠点を移し周囲の結界を強め今のこの場所にあるのだとか。

表の滝と滝つぼはやはり結界だったようだ。結界を張るのが得意な神職さまが作ったあの幻の滝は悪意ある者が触れた瞬間、一瞬にして祓除されこの世から跡形もなく消されるらしい。

もちろんかむくらの神職に悪意を抱く理由なんてないけれど、「消される」と聞いて冷や汗が流れたのは余談だ。そういうのは通る前に言っておいて欲しい。


そしてかむくらの屯所が使われるようになったということは、もちろんかむくらの神職たちが動き始めたということだ。

二学期末に八瀬童子の里が襲われる少し前から本格的に始動していたかむくらの神職たちは、妖一族の里が奇襲されている状況を神々廻芽の仕業と睨み調べ始めていた。

それと同時に内通者の存在に気付いた薫先生のおかげで、上手く情報操作して内通者を炙り出し危機を回避した────というのがほんの数週間前の出来事だというのだから驚きだ。


そしてかむくらの神職たちは今、神々廻芽の捜索と彼に組みしたぬらりひょん、信田妻狐の伊也(いなり)、烏天狗の天司(てんじ)の行方を追っている。




「────それで、芽に一番接触している巫寿にはかむくらの神職に協力して欲しいってわけ。だからここに呼んだんだよ」


一通りの説明を終えた薫先生は私が淹れたインスタント珈琲をすすりひとつ息を吐いた。