それから一時間後、台所のテーブルでお兄ちゃんとドーナツを食べていると、用が終わったのか居間から神職さまたちがぞろぞろと出て来る音が聞こえた。
何人かの神職さまが台所を覗きに来て「おう久しぶり」と私の背中を叩いていく。
人の波が落ち着いた頃に、禄輪さんと巫女のお姉さんが顔を出した。
「お待たせ巫寿ちゃん。退屈しなかった?」
大人っぽくにっこり笑ったお姉さんは私の前に腰を下ろす。
「そういえば私、自己紹介がまだだったよね。改めまして、中堂麻っていいます」
巫女のお姉さんもとい麻さんは、律儀にぺこりと頭を下げた。
中堂麻さん。
この界隈の人の名前にしては随分シンプルな名前だとも思ったけれど、麻と言えば厄除けの効果と「麻には神が宿る」という言い伝えがある。
「それにしても悪かったな、麻。大学があるのに急に呼び寄せて。一人暮らしの家からだと、ここまで来るのも遠かっただろ」
麻さんの隣に腰を下ろした禄輪さんが申し訳なさそうに眉をひそめた。
麻さんは大学生で一人暮らしをしているらしい。だからこんなに大人っぽいのか。
「とんでもない。今日明日は休みですし、迎門の面を送ってくださったのですぐに来れましたよ。それにこうして巫寿ちゃんとも会えたし」
麻さんと目が合う。妙にくすぐったくて頬を赤らめた。



