いくつもの鳥居を潜り、禊の滝を通り抜ければ見慣れた玄関に辿り着く。古びた木造建築の甘い香りに、実家に帰ってきたような安心感と懐かしさを覚える。
「あれ、今日はやけに人が多いな」
靴箱に並んだ雪駄の多さに首を傾げたお兄ちゃんは済に自分のスニーカーを並べる。
よく見ると雪駄の中にピンク色のパンプスが紛れていた。お兄ちゃんのスニーカー同様この下駄箱の中ではなかなか浮いて見える。
お客さんでも来ているんだろうか。
軋む廊下を突き進み、話し声のする居間の前までくる。私たちの影に気付いた誰かがスッと襖を開けた。
中の人物と目が合い、相手は驚いた顔をした。
「巫寿! どうしたんだこんな時間に。神修は神社実習中じゃなかったのか?」
顎髭に隠れた唇が優しく弧を描く。
「禄輪さん、こんばんは」
こんばんはと襖の影からお兄ちゃんが顔を出し、すぐ何かを察したらしく眉根を潜めた。
「この声、もしかして巫寿ちゃん?」
耳に心地よい柔らかい声が部屋の奥から聞こえてくる。禄輪さんの影からひょっこり現れた女性に、「あっ」と声を上げた。
「巫女のお姉さん……!」
長い黒髪がサラリと揺れて、優しげな瞳を細め眉尻を下げて笑った彼女に笑顔を返す。
実家がある町を管轄している「ゆいもりの社」の巫女さまだ。何度かお世話になったことがある。



