おばあちゃんの説教が終わってうずめの社を出る頃には、すっかり山の向こう側に日が沈み、体の芯まで凍りつきそうな夜になっていた。
鬼脈は妖たちの時間が始まり、沢山の妖で賑わっている。
マフラーに首を埋めながらお兄ちゃんをじろりと睨む。
「お兄ちゃんのせいでこんなに遅くなっちゃったじゃん」
「う……ごめん。鬼脈で好きな物なんでも買ってあげるから許して……」
「あずき堂のどら焼きね」
鬼脈の中で高級店に入る店の和菓子屋のどら焼きをちゃっかり要求する。
むしろ私からのお願いが嬉しいのか、お兄ちゃんは「十個でも百個でも買ってあげるよ」と機嫌よく答えた。
迎門の面を付け直したお兄ちゃんは「そういえば」と私を見下ろす。
「巫寿、宝物殿で斎守剣の付喪神にあったんだよね? 何か話したの?」
「あー……うん。多分おじいちゃんとお兄ちゃんが話してた事と関係あると思うんだけど」
こんな往来で三種の神器が盗まれたことは話せない。
上手く言いぼかすと面の向こうのお兄ちゃんの目の色が変わる。
「聞いたのか? "鈴"のこと」
お兄ちゃんが指す鈴は、恐らく私と同じ物を示しているのだろう。
こくりとひとつ頷けば、お兄ちゃんはひとつ大きく息を吐いて首の後ろをかいた。
「全部知ってるなら隠しても仕方ないな。どうやらじいさんたちが跡継ぎに焦ってるのは、鈴を盗まれて失った本庁の信用を取り戻すためらしい。自業自得なのに俺たちを巻き込まないで欲しいよ」



