たしかに、なぜ志ようさんが御覇李鈴(おはりのすず)を盗む必要があったんだろうか。

この三種の神器は現世のものとは違って滅びを導く神器だ。実際にそんな力があるのかどうかはさておき、先見の明を用いて危機を回避し、神職たちを導く立場にいる審神者がなぜそんなものを盗み出したのだろう。

巫女鈴が欲しかったなら別に御覇李鈴(おはりのすず)じゃなくても良かったはずだし、第一かむくらの社から出ることを禁じられていた志ようさんが、そこから抜け出してまで盗んだのはどうして?


「百年の任期が明けるまでになんとしてでも見つけださねば、稚豊命(わかとよのみこと)の私に対する信頼は地の底まで落ちてしまう……!」


頭を抱えた斎守剣はまたもやおいおいとその場に泣き崩れる。

まぁ宝物殿の管理を任されていたんだし、可哀想だけれど責任は問われるだろうなぁ。ということはつまり、鈴の管理を一任されているうずめの社はもっと責められるのでは?


「うずめの社の神職は、鈴がなくなったことを知ってるんですか?」

「毎日あやつらが清掃に来るのじゃから当然じゃ。次の日にはあやつらと黒づくめの男らが血相を変えてこの中を探しとったわ」


黒づくめの男…?

一瞬別の集団を思い浮かべて首を振る。ふざけている場合じゃない。

斎守剣が言っているのは恐らく本庁の役員たちだ。本庁の人達は普段暗い色のスーツを着て働いているし、彼らで間違いないだろう。