「つまり、今は稚豊命が鈴を守る番だったというわけですね」

「左様。本来は二柱がご自身で御覇李鈴(おはりのすず)を守られていたのじゃが、いつしか現世へ渡り、こうして神に仕える人の子らが御覇李鈴を管理するようになった」


国宝の三種の神器が非常に厳重に保管されているのに対し、こちら側の三種の神器はどれも行方が分かっていない。

國舘剣(くにたちのつるぎ)は元はかむくらの社の御祭神さまの私物で、つい最近までは御祭神さまの手元にあったはずなのだけれど、神使である眞奉がこっそりと持ち出し今は私の手元にあるくらいだ。

所有している人しか、その在処を知らないと言っても過言では無い。

ギリ、と歯を食いしばる斎守剣はきつく握った拳を胸の前でぶるぶると震わせる。


「事が起きたのは常祐命(ときすけのみこと)から鈴を受け継ぎ、85年ほど過ぎた頃じゃ。あの忌まわしき盗人娘と、白毛の獣が私の宝物殿へ入り込んできよって……ッ!」

「盗人"娘"? 白毛の獣……?」


何となく盗賊のような出で立ちを思い浮かべていたので、犯人が女性だったことに驚く。

しかも獣ってどういうこと? 金太郎みたいに獣の背に乗ってきたということ?


「お前の言祝ぎの力とよく似ておる娘だ。何年か前、盗人娘が子供の頃に泉寿(せんじゅ)とここへ忍び込んできたことがあったな。その時は派手に怖がらせて追い出したが」


突然、斎守剣の口からお母さんの名前が出てきて「えっ」と声を上げる。