黒光りする四角い台座の四隅には金の装飾が、巫女鈴を立てかける突起には細やかな線で鶴と亀の模様が施されている。
鈴立てには埃一つ付いていない。それほど大切に扱われている祭具だということだ。鈴立てに巫女鈴がないということは、もしかして盗まれたのはこの巫女鈴ということだろうか?
あれ、ちょっと待って……?
私さっき、盗まれた鈴の名前を聞いたような。たしか斎守剣はその巫女鈴を。
「盗まれたのは、御覇李鈴じゃ」
静かな建物内に私が息を飲む音が響く。
オハリノスズ────私の聞き間違えでもなく、それが私の知っているものだとするならば。
「三種の神器のひとつが、盗まれたんですか」
斎守剣が目を細める。そして俯くようにひとつ頷いた。
御覇李鈴。
三種の神器として知られる草薙剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉とは真反対の位置に存在する、もう一組の神器たち。
剣である國舘剣、筆である払日揮毫筆、そしてもう一つが巫女鈴である御覇李鈴だ。
「う、嘘。御覇李鈴が盗まれたんですか?」
「……ああ。あれは13年前のことだった」
13年前、空亡戦が終わった年だ。
「あれ、でも待ってください。私前に調べたんですけど、神話では御覇李鈴の所有者は斎常舞比売命ですよね? 巫女舞を舞う女神様です。うずめの社の御祭神は稚武舞豊彦命で男神だし、どうしてここに御覇李鈴があったんですか?」



