藍色の狩衣に黒い烏帽子を被った若い青年が、ぬらりとひかる大刀を私の首筋に押し当てていた。
「稚豊命のご心痛がいかほどか、そなたに察せられようか!」
怒りに染まった怒鳴り声が鼓膜を震わせる。
突然ぶつけられた燃えるような憎しみに体の芯がぶるりと震えまるで息の仕方を忘れたように呼吸が詰まる。
「ただちに御覇李鈴を返せッ! この盗人ッ────誰だお前は!?」
一瞬にして怒鳴り声が驚愕の声に変わった。
「あなたこそ……誰ですか……」
歯を食いしばりながらそう答えると、「うわぁッ!」と焦ったような悲鳴が上がり、青年は大刀を鞘にしまうと私の上から飛び降りた。
「すまぬ! お主の霊力があの盗人と同じ霊力に思え、ついに戻ってきたのだとばかり……私の勘違いじゃったッ!」
ゴンッと鈍い音がして何かと起き上がる。その青年が床にめり込む勢いで土下座していた。
押し倒された際にぶつけた後頭部をさすりながら青年を観察する。よく見ると彼の身体はうっすらと透けていて向こうの景色を移している。
間違いなく人ならざるものだ。
「あなたは一体……」
青年は泣きそうな顔で体を起こすと、身を縮めて私の顔を伺った。
「この宝物殿を守る御神刀、うずめの社御祭神である稚武舞豊彦命の大刀、斎守剣だ」



