木々の隙間から木造の建物が見えた。一昔前に使われていたような蔵のような建物だ。白壁に黒い柱、青銅色の屋根。金の飾りが施された重厚な扉は、ギィィと音を立ててゆっくりと自ら開いていく。

なぜか恐怖心は湧いてこない。どこかその建物に招かれているような感覚があったからだ。

体の力を抜いた。勝手に進む足に身を任せる。建物の中はあかりが点っていないせいで真っ暗闇に包まれている。埃っぽい風が奥からふわりと流れ出ていた。

足が建物の中へと進んでいく。背後でバタンッと扉がしまった。足はそこで止まった。感覚が自分に戻ってくる。


「ここ……どこ?」


心の中に少しの不安が広がり、おそるおそる辺りを見回す。扉からかすかに漏れる光だけでは中の様子は分からない。

手を前に差し出して一歩踏み出したその時、四方の壁にかけられていた松明にボッと勢いよく火がついた。突然の光に目が眩んで咄嗟に目を細める。

刹那、誰かの指の腹が一瞬私の首筋に触れて、襟首を掴まれる感覚がした。振り返るよりも先に勢いよく後ろに倒され、派手に後ろへ倒れる。

息するまもなく腹の上に誰かが覆い被さる感覚がして咳き込み、必死に目を開けてそれを見た。


「ようやっと現れたな、極悪非道の盗人よ!」


若い男の声だった。茶色がかった赤鉄色の細目が怒りに震えながら私を見下ろしている。