慌てて潤む目尻をごしごし拭い「はーい!」と顔を出す。
扉の前に立っていた人物に目を丸くした。
「恵衣くん……!」
ぎゅっと眉間に皺を寄せた不機嫌そうな顔がデフォルトのその人は、私と目が合うと「この顔で俺以外に誰がいるんだよ」と冷めた口調で呟く。
冷たい物言いも彼のデフォルト、この二年間同じ教室で過ごしてきてやっと最近それを理解し始めた。
京極恵衣、私と同じく神修に通い神職を目指す学生のひとりだ。
「どうして恵衣くんが屯所に?」
「薫先生にこき使われてお前のこと見張ってるうちに、勝手に仲間にされたんだよ」
ぶすっとした顔で顔を背けた恵衣くんに苦笑いを浮べる。
「あはは、素直じゃないなぁ恵衣」
そんな声と共に恵衣くんの背後に立ち、その頭にぽんと手を乗せた人物に顔を綻ばせた。
「さっき下でも会ったけど改めて、久しぶり巫寿」
いたずらっぽく目を細めて笑って私を見下ろすその男性こそ、私の学級担任である神々廻薫先生だ。
「お久しぶりです、薫先生!」
「冬休みはどう? しっかり楽しんでる?」
「はい。今日も親友と会ってました」
「結構結構。青春は一度きりなんだから今のうちにしっかり遊ぶんだよ────と言いたいところだけど、こんな所に連れてこられちゃそうはいかないよね。あはは」
からからと笑う薫先生の腕を跳ね除けた恵衣くんが顔を顰めてもう一度私を見た。



