「アイツぜってぇぶっころ────」

「お兄ちゃん! それ呪の言葉!」


殺気立った祝寿(いこと)お兄ちゃんがズンズンと廊下を突き進む。視線だけで相手を貫いてしまいそうなほど怒り狂った様子に、どうしたものかと頭を抱えた。

事の発端は数時間前に遡る。

お勤めが休みのある日の土曜日、誉さんと授力の稽古に勤しむべく本庁へきていた。いつも通り2時間の稽古を終えた後、一緒に帰る予定の恵衣くんが本庁のお手伝いを終えるまで寮の自室で一休みしようと庁舎内を歩いていた。

入口前の受付を通りかかったその時、突然背後から二の腕を掴まれた。驚いて振り返ると、意外な人物が立っていて目を見開く。

浅葱色の袴に短い直毛の短髪、二重まぶたの大きな瞳。人懐っこい顔つきだけれど、眉間の皺にムッとした唇が人を寄せつけない雰囲気を醸し出す。

母方の叔父、お母さんの弟である椎名(しいな)和来(わく)さんが、険しい顔でそこに立っていた。


「わ、和来おじさん? えっと……」


激しく嫌な予感がして逃げようと身を捩るもビクともしない。

おじさんは顔をゆがめた。


「俺だって不本意だ。でも親父がどうしても祝寿と話したいっていうんだよ。こうでもしなきゃアイツは表に出てこないだろ」


有無を言わせず私の手を引き歩き出した和来おじさん。

文句を言うよりも先に叩きつけるように迎門(げいもん)の面を被せられた。