怒涛の勢いで質問攻めに遭う薫先生は、その内容にギョッとした顔をする。


「ちょ、生徒の前でやめてよ。俺は元気だから」

「ああ……あの小さな薫さまは教師になられたんですね。いつも怯えたように私の影に隠れていた薫さまが、今度は生徒たちの前に立つようになられたのですね」

「もう勘弁してよ……」


天を仰いだ薫先生は大きく長いため息を吐く。おいおいと泣き出す真言権宮司に顔を顰めて額に手を当てた。

助けを求める視線を送られたけれど私たち部外者にはどうすることもできず、薫先生に小さくてを合わせる。


「とにかく社へ。皆も薫さまに会いたがっています。お顔を見せればきっと喜びますよ」


真言権宮司は笑って薫先生の背中に手を当てる。

一瞬顔をひきつらせた薫先生は、その手をゆっくりと遠ざけた。


「……真言は昔から変わらないね。でも"みんな喜ぶ"は言い過ぎじゃない?」


真言権宮司は頬を叩かれたようなハッとした表情で見つめる。薫先生は背を向けてタクシーの扉に手をかけた。


「どうしてお戻りにならないのですか……!」


薫先生がピタリと手を止めた。小さく息を吸って吐き、ゆっくりと振り返る。

揺れる瞳は今にも罪悪感で押しつぶされてしまいそうな程に揺らぎ震えている。その瞳の奥に、わくたかむの社の鳥居が映った。





「────戻らないんじゃなくて戻れないんだよ。あの場所には、もう二度とね」