扉を閉めてゆっくりと振り返る。かけていた眼鏡を外して顔を上げた。

その瞬間、真言権宮司の手からばさりと荷物が滑り落ちた。その音に気付いた薫先生がこちらに目を向ける。

気まずそうに伏せられていた瞳が見開かれた。


「薫、さま……?」


信じられないものでも見たような衝撃を受けた顔で薫先生の名前を呼ぶ。

薫先生は目線を泳がせたあと、首の後ろを摩って困ったような顔をした。そして。


「……老けたね、真言」


少し親しげな声色で権宮司の名前を呼ぶ。

権宮司は今の役職になる前は禰宜頭だったと聞く。薫先生のことを知らないはずがない。


「え……薫さま? え? あの薫さまですか!?」


薫先生と権宮司の顔を困惑気味に見比べる禰宜頭に、真言権宮司が勢いよく詰め寄る。


「お前、この子達の担任が薫さまだと知ってて私に報告しなかったのか!?」

「と、とんでもない! 私も存じ上げなかったんです……! 打ち合わせは電話でしたし、必要書類は学長のお名前しか必要ないので気付かず」


狼狽する禰宜頭は額の汗を脱ぐって両手を胸の前で振った。

切羽詰まった顔の真言権宮司は禰宜頭を押しのけて薫先生に駆け寄った。顔を真っ赤にして薫先生の両肩を掴む。


「ずっとお会いしたかった……! ああ、こんなに立派になられて……。ちゃんとご飯は召し上がっておられますか。好き嫌いはなさってませんか。ピーマンは食べられるようになったんですかっ!」