えっと、と言葉を濁した聖仁さん。

先程薫先生が"実家の神職とはあんま仲良くないし"と言ったからだろう。

けれど無意識に助手席に目線を送ってしまい、「中にいらっしゃるのか?」と助手席の扉の前に立ち窓ガラスを軽くノックする。

しばらくの沈黙の後ウィーンと窓がゆっくり降りた。助手席の薫先生はいつの間に用意したのか分厚い銀縁メガネをかけている。

あれって運転手さんがずっとかけてた眼鏡じゃない……?


「あれ、君たち今帰ってきたのか?」


また別の声が背後から聞こえて振り返る。

朝から所用で出かけていた真言(まこと)権宮司(ごんぐうじ)が風呂敷を抱えて立っていた。


「はい。急遽地縛霊の修祓を行うことになって。担任の先生に監督してもらって、帰ってきたところなんです。今禰宜頭と先生が……」


私がちらっと視線を送る。ちょうど助手席の扉が空いたところだ。


「だったら私もご挨拶しておこうか。もう遅いし、君たちは寮に戻りなさい」


はい、と返事をしつつ次々集まってくる神職たちに胸がざわめく。

何十年と実家に帰らず、会いたくないと言うほどの相手だ。薫先生は大丈夫なのだろうか。

真言権宮司が車に向かって歩き出す。助手席から薫先生が足を出してゆっくりと出てきた。