薫先生の奢りでお寿司をたらふく食べたあと、タクシーで社まで戻ってきた。道路を一本挟んだ通りに私たちを下ろした薫先生は助手席から顔を出して軽く手を振る。


「信号渡るだけだし、もう大丈夫だよね。早く風呂入って寝るんだよ〜」

「社に寄って行かないんですか? 薫先生のご実家ですよね?」


私たちよりかはあまり詳しい事情を知らない聖仁さんが、おそらく善意でそう声をかける。

薫先生は曖昧に笑って「俺、実家の神職とはあんま仲良くないし、今日はいいよ」と肩をすくめる。


「つっても、誰か出てきたぞ」


亀世さんが鳥居を指差す。え、と顔を強ばらせた薫先生はすかさず窓を閉めた。

ちょうど歩行者用の信号は青になっており、「出してください」と言う薫先生の願いは呆気なく却下された。

夜風に紫色の袴がはためく。走ってきたのは禰宜頭だった。


「おかえり。君らの担任の先生から急遽修祓になったと聞いて心配していたんだ。みんな怪我してないか」

「はい。そこまで強くない自縛霊だったので、祓詞と……プラスアルファで祓えました」


亀世さんのお香は使用の認可が降りていないのでごにょりと誤魔化した聖仁さん。なかなかに苦労が耐えない人だ。


「プラスアルファ? とにかく明日報告書を提出してくれ。先生は帰ったのか? 打ち合わせの時は都合が合わず電話で軽く済ませた程度だったからご挨拶しておきたくて」