「巫寿」
名前を呼ばれて顔を上げる。堤防の階段を途中まで登っていた恵衣くんがこちらを見ていた。
今行くよ、そう応えて一歩踏み出す。
「俺も一緒に行く」
電話を終えた薫先生が隣に並ぶ。どこかいつもと違う硬い表情に少し不安が募る。そうそう、と口を開いた薫先生は私を見下ろした。
「巫寿たち晩メシまだだよね? せっかくだからお寿司でも食べてかない? 禰宜頭からは許可もらったよ」
「まじ!? 俺すし郎がいい!」
堤防の上まで戻っていたはずの泰紀くんが、階段の上で身を乗り出しブンブンと手を振る。薫先生は「すし郎ね、了解」とおかしそうに笑った。
「教師が生徒に寄り道勧めるなんてどうかと思いますけど」
「いいじゃん寄り道。それに教師同伴だし、付き添うのはこの俺だよ? 奇襲も財布の心配もない」
確かに明階一級の階級をもつ薫先生が傍にいればこれ以上に心強いことは無いけれど、本当にこれでいいのだろうか。
いこいこ、と背中を押されて足を速める。
薫先生の横顔は、気が重いことから逃げている時の自分に重なって見えた。



