先に大人だけで話したいことがあるから、巫寿は部屋にいてくれ。しばらく部屋を物色してゆっくりするといい。
そう言われて連れてこられたのは屯所二階にある和室の一室だった。物色?と不思議に思っていたけれど、入った瞬間匂いで分かった。
私とお兄ちゃんを挟むようにして抱きしめた時の両親の匂いと重なる。
ここはお父さんとお母さんが使っていた部屋なんだ。
古いアルバムを開けるような高揚感にキョロキョロと辺りを見回す。
全体的に埃っぽいけれどこまめに掃除はされていたようで、まるで昨日まで使われていたような人の気配がする。
私とお兄ちゃんが笑う写真立て、実家の本棚に置いてある小説と同じシリーズの途中の巻、ふたつ並んだマグカップに半分減ったインスタントコーヒー。
洋服ダンスには「一恍さん引き出し最後まで閉めて!」とラミネートされた張り紙が画鋲で刺してあり思わずプッと吹き出す。
一時的に宿泊する場所だからか荷物はそれくらいしかないけれど、お母さんがそうしたのか梅の絵柄の手ぬぐいが壁から吊るされていたり可愛らしい小物も少しだけある。
私が育った今の実家は両親との思い出が一切ない場所なので、二人の存在を感じるこの部屋にはなんだか少し泣きたくなる。
熱っぽい息を吐いたその時、コンコンッと扉が軽やかにノックされた。



