先程亀世さんが言っていた厄除のお香だろうか?

お香から流れる白い煙が自縛霊を包み込み、真ん中にいる女の霊は爪で黒板を引っ掻いたような悲鳴をあげて髪を振り乱している。


「亀世。もう祓詞奏上するよ?」

「いや待て、もうちょっと効果を観察して次に役立てる」


手帳にせっせと何かを書き込む亀世さんの脳天に拳を落とした。聖仁さんはため息をついて額を抑える。


「無意味に苦しませるのは諸法度違反! さっさと祓う!」

「あっ、くそ! なんだよ堅物!」


聖仁さんの明朗とした声の祝詞奏上により、最後は穏やかな表情で光のつぶとなり消えていった。相変わらず聖仁さんの祝詞奏上は見事で的確だ。

そして亀世さんも相変わらずだ。……うん、相変わらずだ。


「ちょっと二人とも、お見事だったけどもう少し後輩に実践経験積ませてやってよ」

「あ、すみません薫先生。亀世止めるのに必死で」


痛くないゲンコツを落とされた亀世さんは「いいデータが取れたぞ」と悪い顔で笑う。

"チーム規格外"とはよく言ったものだ。


「夫に不倫されて自殺した女性の自縛霊だったので、亀世のお香と祓詞奏上で修祓できました」

「ん、完璧。帰ったらちゃんと報告書書いてね」


にしてもさぁ、と泰紀くんが地縛霊が佇んでいた場所を眺めて少し憐れむような目をした。