整備された堤防の石階段で高水敷まで降り、高架下へ歩みを進める。風に乗って流れてくる暗紫色の靄に眉を顰める。
ちょうど亀世さんがコルクみたいな塊に火をつけたところだ。泰紀くんがふぅふぅと顔を寄せて息をふきかけている。
その先には水に入れたドライアイスのようにもくもくと残穢を吹き出す白いワンピース姿の女性が叫び声を上げながら立っている。
祥吾先生が言っていた"嫌な感じ"は間違いなく彼女のことだろう。
「丁度いいし二年ズは復習がてら、授業しようか」
ええっ、と嫌そうな声を上げた泰紀くん。
集合!と合図がかかり渋々私たち三人は薫先生の周りに集まった。
「今回は前情報が何も無い状態での修祓だね。その場合適切な祝詞選びが必要になってくるわけだけど、現状でわかることは何かな? はい、トップバッターはさっき"ええっ"って言った泰紀」
「俺ぇ?」
少し困った顔で首の後ろをかいた泰紀くんは、高架下の幽霊をちらりと見た。
「えっと……幽霊のネーチャンの服がびしょ濡れだったから、多分死んだ時に水に濡れてたんじゃねぇかな。で、ここ橋の下だし、飛び降りして幽霊になっちゃった系? 殺してやるつってたし誰か恨んでるっぽいから、自縛霊とか?」
「おっ、よく観察できてるね。素晴らしい!」
滅多に褒められることがないので、嬉しそうに鼻をふくらませて頬を赤らめた。



