空を見上げる。上空には真っ白い毛並みを風に靡かせ、太い前足に顎を乗せてくつろぐ大きな妖狐がぷかぷかと浮かびながら私たちを見下ろしていた。

薫先生が使役する管狐のコンちゃんだ。

どうやら薫先生はコンちゃんの背に乗って夜空をかけてここまで来たらしい。どうりで到着がこんなにも早いわけだ。


「で何、本当にピンチってわけじゃないんでしょ? 本題は?」

「あそこにヤバめな幽霊がいる。間違いなく祓除対象だ。社の神職たちは忙しいようで、薫先生を呼び出した」


亀世さんが指さした高架下を目を細めてじっと見つめる。なるほどね、と呟いた薫先生は私たちに向き直った。


「監督者が欲しかったって訳か。オッケー、いいよ。俺が見てるから好きにやっちゃいな」


やりぃ、と指を鳴らす亀世さんの後頭部をガッと押さえ込み聖仁さんが頭を下げる。


「すみません、薫先生。急に呼び立てて」

「いいよ、今日はもう飯食って寝るだけだったし、こうしてみんなの元気そうな顔も見れたからね」


舌打ちしながら聖仁さんの手をすり抜けた亀世さんは「行くぞ泰紀!」と泰紀くんを連れ立って堤防の坂を転がるように降りていった。

こら待て!とその後を聖仁さんが追いかけていく。

元気だねぇ、とからから笑った薫先生は私たちに向き直った。