髪長いネーチャンの幽霊だった、と垂らした両手を胸の前に差し出した。

苦い顔をした聖仁さんがもう一度高架下を見下ろす。

目視できる残穢は、心做しか先程よりも濃くなっている気がした。確かに放っておくにはいささか不安要素が残る。


「……ったく、暇な監督者がいればいいんだな?」


ちょっと待ってろ、と亀世さんがポッケからスマホを取りだした。トントンと軽く画面を叩いたあと、暗くなった画面を耳に当てる。

しばらくの沈黙の後「もしもし」と誰かと通話を始めた。


「────ああ、じゃあ暇なんだな。今すぐ来てくれ。生徒のピンチだ、絶体絶命の状況だ。現在地はこの後送る」


間髪入れず、じゃ、と通話を切った。相手の承知を確認するよりも先に通話を終わらせていた気がするのは気のせいだろうか。

また軽くスマホを叩いて、用が済んだのかくるりと振り返る。


「すぐに来るってさ、監督役」


え!?と聖仁さんが目を剥いた。


「ちょっと待って、一体誰を呼んだの? ていうか、ピンチとか絶体絶命とかって言ってなかった? ちゃんと説明しなきゃ駄目だろ!」

「ピンチだろ。祓いたいのに祓えない状況なんだから」


しらばっくれた様子で草の上に座った亀世さんは、「お前らも座って待っとけば?」と笑う。額に手を当てた聖仁さんの深い溜息が、心做しか残穢を遠ざけた気がした。