部屋の中に重苦しい空気が流れる。
こういう時、どんな状況にもかかわらず口火を切ってくれる恵衣くんの存在はありがたい。
「校長がいじめに加担していた、というのはどういうことですか? 当時の担任だったんですよね」
ああ、と祥吾先生は自嘲気味に笑う。
────指導の仕方に昭和っぽいところはあったけれど、当時の先生はみんなが慕う理想の教師って感じで、生徒からも親からもかなり人気があったんだ。
今度は【みんなの思い出】というページ開いた。恐らく学校行事や日常の写真が掲載されているのだろう。
満面の笑みで生徒たちと肩を組む校長先生の姿があった。
一瞬軽蔑の表情を浮かべた祥吾先生は、見たくないものを遠ざけるようにアルバムを閉じて本棚の奥にぎゅっと押し込む。
私たちに背を向けたまま続けた。
僕の親も「あの人は教育熱心だ」なんて言っていたけど、教師になった今なら言える。僕はそうは思わはない。あの人は、自分を慕う生徒だけを可愛がるんだ。だから辰巳みたいに、ちょっと人とは違う生徒は徹底的に排除しようとした。
人とは違う?と聞き返した。
祥吾先生はひとつ頷き「知的な遅れはないけれど、学習のスピードがゆっくりで得意不得意にばらつきがある生徒のことだよ」と教えてくれた。



