想像していた滝に打たれる衝撃は来なかった。
この滝はあくまで結界だから滝としての昨日はないのだろう。羽衣で頭からつま先を撫でられる様な感覚がした後、水や草木の香りがフッと消えて代わりに古い木造建築のような匂いがした。
「ついたぞ」
肩を叩かれて目を開けると、いつの間にか広い玄関に立っていた。
古びた建物だ。田舎の一軒家見たいなたたきの広い玄関があって、ずっと奥まで木板と土壁の廊下が続いている。足元は行灯の明かりで灯されてはいるものの薄暗く心許ない。
住みに備え付けられた靴置きの棚にはずらりと雪駄が並んでいる。雪駄は神職の履き物だ。
迷わず靴を脱いで廊下を進み始めた禄輪さん。慌てて靴を脱ぎ下段の隅に並べる。白いスニーカーがなんだか浮いて見えた。
小走りで廊下を進み禄輪さんの背中にピッタリとくっつくと、禄輪さんはからからと笑って私の頭に分厚い手を乗せた。
「巫寿は変わらないな」
「え?」
「初めて鬼脈に連れてきた時も同じ感じだったぞ」
そうだっけ、と首を捻る。
初めての場所に緊張と恐怖でがちがちになっていたことだけはしっかり覚えているけれど。
「巫寿の前に立って導くのは、私の役目なのかもしれないな。とにかくそう怖がらなくていい。ここが"かむくらの屯所"だ」



