言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー


「当時の状況も何も……タツキは朝他の学生と一緒にバスに乗って校外学習のためあの山へ行き、帰宅したあと行方不明になった」

「校長、辰巳です。タツミ」


田口先生が静かに口を挟み、校長先生は悪びれた顔もせず「ああ、そうだったな」と少し不機嫌さを露わにして目を逸らす。

この人、本当に大丈夫なんだろうか。

時間が経っているとはいえ元教え子の、しかも行方不明になった教え子の名前を間違えるなんて。


「陽太くんが最後に確認されたのは校外学習の昼食休憩が最後です。校外学習中に行方不明になった可能性は考えられますか?」

「君は私の監督不行届が原因でタツキが行方不明になったのだと言いたいのか? 帰りのバスで点呼は取ったし、その時彼は乗っていたはずだ」

「はず? 陽太くんが帰りのバスに乗ったのを目視したわけではないんですね?」


口をへの字にした校長先生が顔を真っ赤にして勢いよくテーブルを叩き付ける。テーブルの上の花瓶が数ミリ浮いて音を立てた。


「あの日タツキが行方不明になったのは私の責任じゃない! ああそうだ、点呼は学級委員に任せて私は確認しなかった。でも他の教師だってそうしていたんだ。私だけじゃない!」


空気が震えてピリつく。校長先生の荒い息づかいだけが響く。


「陽太くんが思い詰めていたり、何か問題を抱えている様子はなかったのか」


目を細めた亀世さんが口を開く。