言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー


ガラス製のテーブルに黒い革張りの重厚なソファーがある応接室へ案内された私たち。人数が多いので、私たち1年生はソファーの後ろに用意してもらったパイプ椅子に腰を下ろした。

不躾にならない程度に部屋を見渡す。

壁掛け時計に、恐らく学生が描いた絵画。少し枯れかけの花が活けられた花瓶があるくらいで、すっきりした質素な部屋だった。


「私が校長の岩間(いわま)で、彼は田口(たぐち)先生だ」

「初めまして、田口です。三年生の古典を教えてます。陽太くんとは当時同級生で、校長先生から君たちの話を聞いて同席させてもらいました」


なるほど。聖仁さんからは当時の担任から話を聞けると聞いていたので、どうして若い先生がいるのか不思議に思っていたところだった。田口先生は陽太くんの同級生なのか。

メガネの奥のタレ目が、彼の穏やかな性格を物語っている。口調も校長先生に比べれば丁寧で高圧的じゃない。


「それにしても……本当に君たちのような学生が来るとは思っていなかった。そもそも神隠し事件として捜査するとは一体なんなんだ? 霊感のある子供を育てる学校? 馬鹿らしい。十分な後援を受け取ったしそれ以上踏み込むつもりはないが、用が済んだらすぐに帰ってくれ。我が校の学生に悪影響があっては困るんだよ」


呪が絡みついた攻撃的な言葉に、一瞬でこちら側の空気が凍りついたのを感じとった。

恐らく聖仁さんがアポイントを取る前に権禰宜に相談していたので、権禰宜から簡単な説明と協力の依頼を受けていたのだろう。


神修の制服ではなく、この中学の制服で来るように指定されたのも多方それが理由なんだろう。