耳にかけていた髪が頬に落ち、問題を解いていた手を止めた。集中力が途切れてしまったのか思い出したように身体のあちこちがきしみ始め、ペンを置いてひとつ大きく伸びをする。
ちらりと周りに視線を向けると、程よく暖房の効いたファストフード店の二階席はいつの間にか制服姿の学生達で溢れていた。皆楽しげに友人たちと語らいながらハンバーガーに齧り付いている。
スマホの画面を叩くと時刻は17時を示す。少し前に学校が終わって、「帰りにポテト食べない?」と話題が出る頃合だ。
すっかり冷えきったキャラメルラテを口につけ、メッセージアプリを立ち上げる。
いつもと変わらないメンバーからのメッセージが届いていて、一人ずつ返事を返していく。下までたどり着いた後、お気に入り登録しているグループトークの画面を開いた。
一番最後にそこで交わした会話は二学期の修了祭のあと、帰りの車の時間がばらばらでちゃんと挨拶ができなかった私たちは「また三学期に」というやりとりをグループトークで送りあった。
少し前までは話題が尽きることのなかったグループトークが今ではしんと静まり返っていて胸の辺りがきゅっと痛む。これまでは何とも思っていなかった日常が、私にとっては大切な時間だったことを今になって実感する。
ため息をついて視線を窓ガラスの外に向ける。楽しげに語らいながら帰路に着く人達を見下ろして、何とも言えない閉塞感に襲われる。
眉根を寄せて俯きかけたその時、ブブッとスマホが震えてメッセージを受信したことを知らせる。画面を立ち上げると送り主は親友だった。
【巫寿下見て! しーたー!】
不思議なメッセージに首を傾げながらガラスに顔を寄せる。
満面の笑みで下からこちらを見上げてブンブンと手を振る人物にプッと吹き出し、私も小さく振り返した。



