ポニーテールに手を伸ばす。根元に組紐を巻き付けていると花飾りの部分に組紐が引っかかった。
四苦八苦していると「触るぞ」と頭上から声が聞こえる。冷たい指先が僅かに触れ合って、心臓がどくんと大きく跳ねる。咄嗟に手を胸の前に引き寄せた。触れ合った指先をきゅっと握りしめる。
「桃の花には魔除けの効果がある。肌身離さず身につけていれば、少しはお前を守ってくれるはずだ」
確かに古代中国では桃には魔よけの力があるとされているし、女の子の無病息災を祈る桃の節句では厄除けのために桃の花を飾る。お守りや御札の描かれていることもしばしばあった。
ほら、と声が聞こえて頭に触れた。繊細なガラス細工が指先に当たる。
ゆっくり振り向く。僅かに口角を上げた恵衣くんと目が合って、頬がやたらと熱い。
「……ありがとう」
「さっきも聞いた」
「でももう一度言いたくなったの」
「あっそ」
ふ、と小さく笑った恵衣くん。今日の恵衣くんはよく笑うなとその横顔をぼんやり眺める。
しばらく心臓は、ばくばくとうるさいかった。



