視界が開けた瞬間、両耳にとてつもない轟音が飛び込んできて息苦しいほどの湿度を感じる。足はいつの間にか土を踏んでおり、轟音に合わせて振動が足裏に伝わってくる。

私たちは深い森の奥にいた。湿った土の匂いと腐った落ち葉の深い香り、清水のなんも言えない清らかな香りが全身を包み込む。

何よりも目の前の滝に息を飲んだ。

そこまで大きくは無いけれど、二階建ての建物くらいの高さはある。泡で白濁した清水がてっぺんから流れ落ち滝つぼに打ち付けて水煙をあげた。

生まれて初めて生で見る滝に言葉が出てこない。

こっちだ、と禄輪さんは迷いなく滝つぼに足を入れた。ギョッとした私にカラカラと笑う。ザバザバと躊躇なく進む禄輪さん。ここで置いていかれてしまったら完全に迷子だ。

腹を括り「えい!」と思い切って滝つぼに足をつける。

凍りつくほど冷たい水を想像していたけれど、むしろ温水のプールに入っているようにほんのりとした温かさを感じて「え?」と目を瞬かせた。

温かさを感じるし、もはや濡れている感覚さえない。どちらかと言えば濃霧の中を進んでいる濃密だけれど軽やかな感覚だ。膝裏にふわりと当たる感覚がくすぐったい。


「禄輪さん、これって」

「結界のひとつだ。この場所を守る最後の要の結界だな」


やはりそうなんだ。この澄み渡る清浄さは結界の中の領域だからこそ実現する。