「え、恵衣くん?」


無言で会計を済ませると、そのままずんずん店の外へ歩いていった。


「恵衣くん待って!」


通りの隅まで歩いてくると、足を止めて振り返る。膝に手をついて肩で息をした。

恵衣くんは背が高いんだから歩幅をもう少し考えて欲しい。


「ん」


顔の前に差し出された紙袋を反射的に受け取る。

袋の中には先程まで悩んでいた桃の花の髪飾りが入っている。戸惑いながら恵衣くんを見上げた。


「欲しかったんだろ」

「で、でも安いものじゃないのに」

「じゃあ俺につけろって言うのか」


さらさらな黒髪にこの桃の花の髪紐をつけた恵衣くんの後ろ姿を想像する。想像の中なのに私以上に似合っているのが悔しい。


「大層お似合いかと……」

「バカなのかお前」


間髪入れずにお決まりのセリフが炸裂する。確かに今のは私も少し悪ノリしすぎた。

眉尻を下げて紙袋と恵衣くんを見上げる。


「本当に貰っていいの……?」


恐る恐る尋ねると、案の定「しつこい」と睨まれた。

紙袋の中から髪紐を取り出す。

桃色の花弁が手のひらの上で春の日の木漏れ日のように柔らかく輝く。


「ありがとう、凄く嬉しい。大切にする。今つけていい?」


勝手にしろ、とそっぽを向いた恵衣くん。