「お前はこれだろ。桃の花」


薄桃色に色付いた髪紐を手に取って私に差し出す。

ポカンと口を開けてそれを受け取った。


「梅とか桜ってイメージじゃない。特に巫女舞の時の印象からすれば間違いなく桃だ」

「そう……なの?」


自分では分からないのだけれど、恵衣くんがそういうのだからそうなのだろう。

巫女舞の印象から桃の花を選んでくれたことに気恥しさを覚えながらも胸に引き寄せる。


「じゃあ、これにする────あ」


ちらりと見えた値札に固まる。

素敵なデザインにばかり目がいって、値札をちゃんと見ていなかった。ガラス細工なだけあって、なかなかいいお値段だ。お財布の残金を思いだし、あとほんの少しだけ足りないことに気付きガックリ肩を落とした。

小物集めが趣味なので、こういうガラス細工の雑貨が一点物なのは分かる。そう何度も鬼脈に来れるわけではないので、きっと次にくる頃にはもう売り切れているだろう。

でも手持ちがないんだし、こればっかりは仕方がない。残念だけど諦めるしかないか。


「早く会計してこいよ」

「それが……思った以上に高くて。手持ちが足りないからやっぱり諦める」


小さく息を吐いてテーブルの上に戻そうと手を伸ばしたその時、横からパッとそれを取った恵衣くんはずんずんお会計へ歩いていく。