定食屋を出てからというもの一切口を聞いてくれなくなった恵衣くん。無視していると言うより気まずくて反応に困っているようだった。
買い物には文句ひとつ言わず付き合ってくれるのだけれど余計それが気まずい。
玉珠ちゃんから頼まれていた、いま幽世で流行っているらしい小説の最新を購入し、二人から頼まれていたおつかいは無事完了した。
先に店を出て看板の隣で待っていた恵衣くんに声をかける。
「お待たせ。お買い物は全部済んだよ。付き合ってくれてありがとう」
「……ん」
「じゃあ本庁向かおっか。今の時間だと車の出発、どこの社からだろう。私ちょっと掲示板見てくるよ」
「お前は?」
唐突な質問に首を傾げる。
お前は? どういうこと?
恵衣くんはちらりと私を見下ろしてまた目を逸らすとふーっと鼻を鳴らす。
「お前も買い物したかったんだろ。買ったのは後輩の分だけじゃないのか」
「え、でも」
確かに最初は買い物するつもりでいたけれど、恵衣くんに付き添ってもらっている以上あちこち連れ回すのは良くないかなと思って自分の買い物はしなかった。
「まだ、時間はある。行きたいなら行けば」
思わぬ提案に恵衣くんの顔を凝視する。
ウロチョロするなと怒られる想像は安易にできるけれど、まさか恵衣くんから寄り道の提案してくれるなんて。



