一体何年そう思い続ければ、普段通りの表情でそんな言葉を口にできるんだろう。

そんなの、あまりにも悲しすぎる。


「絶対に自分を諦めるようなことは言わないで」


少し驚いたように肩を震わせた恵衣くんはちらりと私を見上げてまた目を逸らす。


「だからまだ言ってないだろ」

「言おうとしてたってことでしょ……?」


負けじと言い返せば言葉を詰まらせて少したじろぐ。数秒の沈黙、そして恵衣くんは「……失言だった」と目を伏せる。

滅多に見せない弱りきった表情から、恵衣くん自身も己が言おうとした言葉に戸惑い、深く反省しているのが伺えた。


「私は、完璧じゃないところも全部、恵衣くんらしくて素敵だと思う」


口は悪いし態度も悪いし、仏頂面で無愛想。ごめんねもありがとうも下手くそで、真面目なのかと思ったら喧嘩早い。

けれど不器用な奥にある優しさや、優秀と呼ばれるまでの努力。ちょっとズレているところがあって、最近同級生に毒されて不真面目になりつつあるところ。

『惨めったらしく俯くのはやめろ』と泣きそうになって俯いていた私に手を差し出してくれたところ。辛い時に一人でいると、必ず探しに来てくれるところ。

最初は苦手だった部分もあったけれど、今ではそれ以上にいい所を知っている。全部が全部、恵衣くんらしいと思える。


「私は、恵衣くんがいなければ悲しい」


ふと出た言葉はただ単に励ましたい気持ちだけで並べた言葉ではない、私の素直な気持ちだった。