つまりあの日恵衣くんがお父さんに手を上げられていたのは、成果が出せないことを叱られていたってこと?


「俺だって、いくら待てども成果を出さない奴はすぐに見限る」


そう呟き味噌汁を啜った。

何をどういえばいいのか分からず言葉に詰まらせていると恵衣くんは小さく息を吐いた。


「出来損ないの俺じゃなくて、優秀な兄の方が死ぬなんてな。両親だって俺が────」


次に恵衣くんが何を言おうとしたのかが分かった、言葉よりも先に咄嗟に体が動いた。

突然身を乗り出して手首を掴んだ私の行動に驚いたのか、恵衣くんの手の中からカランと箸が転がり落ちた。


「おま、いきなり何ッ」


耳を赤くして慌てる恵衣くんの瞳を必死に覗き込む。


「言祝ぎを口にして」


いつも皆から言われ続けてきた言葉を、私が恵衣くんに伝える日が来るなんて思ってもみなかった。

一瞬ハッとした顔をした恵衣は、「……まだ何も言ってないだろ」と決まりが悪そうに目をそらす。


きっと私が止めなければ、恵衣くんは「俺が死んだ方が良かった」と続けていた。

恵衣くんらしくない呪が強い言葉だ。

でも思い詰めて言ったようには聞こえなかった。つまり恵衣くんはずっと心の中でそう思っていて、ふとした拍子に漏らしてしまったのだろう。