「家族でお出かけは、どこに行ったの?」
白米を咀嚼していた恵衣くんはちらりとこちらに視線を向けて、沢庵を口に放り込む。
「別に大した場所には行ってない。両親の仕事に付き添って、その帰りにこうして飯屋に寄るくらいだ」
「そんなに小さい頃から勉強してたんだ。期待されてるんだねぇ」
「社交辞令はいい。両親が期待してたのは間違いなく怜衣兄さんにだ。あの人たちが俺なんかに期待するはずがない」
初めてお兄さんの話題が上がった時も、同じようなことを言っていた。
自分の能力を過大評価せずストイックに研鑽できるところが恵衣くんのいい所だし、お兄さんが優秀だったのもよく分かるけれど、恵衣くんだってクラスで一番頭がいいし十分優秀の類だ。
ご両親だってきっとその努力は認めているはずなのに。
「そんなことないと思うけどな」
「お前だって見てただろ。一年の観月祭の日、俺が父さんに殴られてたの」
触れない方がいい話題だと思って避けていたけれどずっと気になっていた出来事だ。
恵衣くんも私に見られて屈辱的だっだろうと思っていたので、恵衣くんが自らその話題を持ち出したことがこれまた意外だった。
「怜衣兄さんは高一の頃には、もう既に正階を取っていたし観月祭の月兎の舞や神話舞の奏者にも選ばれていた。兄さんと同じことができない時点で、両親は俺のことを諦めてるんだよ」
いつもの冷静な表情でそう続ける。



