なんでもなーい、と少しおどけたふうに肩を竦めれば、これまた意外にも恵衣くんは「なんだよ」と小さく笑ってコップに唇をつけた。

今なら雑談でも乗ってくれそうな気がする。


「恵衣くんって休みのは日はこうやって出かけたりしないの?」

「そんな暇があるなら自主練するか本庁で勉強する」


恵衣くんらしい回答に苦笑いを浮べる。


「息抜きしたいなぁとか思わないの?」

「思わん。そんな時間必要ないだろ」


なんというか、そんなに毎日気を張っていて疲れないのだろうか。

私は嫌なことがあったり辛いことがあれば気持ちを切替えるためにも遊びに行って息抜きをするけれど、恵衣くんは滝行や瞑想をしてそうだな。


「まぁ、兄さんが生きていた頃は何度か家族で出かけたこともあったが」

「お兄さん……怜衣(れい)さんだよね」


角煮定食が届いた。煮汁の甘く香ばしい匂いとツヤツヤした脂の乗った豚肉に食指が動く。いただきます、と丁寧に手を合わせた恵衣くんを見習っていつもよりもちゃんと手を合わせる。

箸で突いただけでもほろりと崩れるお肉をパクリとひと口、すぐに口いっぱいにじゅわりと広がる肉汁に思わず頬を押えて悶絶する。


恵衣くんもお気に召したのか、デフォルトになっている眉間のシワが解けていた。