「それにしても、すまんな。急に連れ出してしまって」
幽世と現世を繋ぐ鬼門に立った禄輪さんは迎門の面を私に差し出しながらそういう。
受け取って耳に引っかけながら首を振った。
「帰っても宿題をするか、お兄ちゃんと一緒にご飯を食べるくらいなので」
「でも恵理ちゃんとの約束もあっただろう」
「次の約束は明後日なんで大丈夫ですよ」
禄輪さんが申し訳なさそうに眉を寄せて私を見下ろす。
「いや……暫くは家に帰れないかもしれないんだ」
へ?と目を瞬かせる。詳しくは着いてから話そう、そう言った禄輪さんは私の背を押した。
暫くは帰れない? 一体どういうこと?
一抹の不安を抱きながらゆっくりと鬼門へ歩みを進めた。
全ての社と神職たちの頂点に立ち、最高神である撞賢木厳之御魂天疎向津媛命に仕える存在審神者がおわす場所がかむくらの社だ。
非常に重要な場所であることからあまたの結界によって守られている。決められた鳥居を決められた順番に通ることによって社への道が開ける仕組みだ。
何度かかむくらの社へ尋ねたことのある私は何となくその道順を覚えていたけれど、途中で禄輪さんが見知らぬ鳥居をくぐったことで目指す先がかむくらの社ではないことに気付いた。
「次で最後だ」
そう言って目の前の鬼門を指さした禄輪さん。
かむくらの社ほどではないけれどその場所は何重もの結界によって守られているらしい。



