私服から制服に着替えて鞄を背負い玄関へ向かって歩いていると、丁度部屋から出てきた恵衣くんとばったり顔を合わせる。

恵衣くんも私服ではなく制服姿だった。


「あれ、恵衣くんもこれから神修?」

「本庁」


ご両親が本庁勤めで将来入庁することを打診されている恵衣くんは、放課後や休みの日はよく本庁へ赴いて仕事の手伝いをしている。


「お前は」

「私も本庁。15時から誉さんと授力の稽古なの」


いつものようにあっそ、と素っ気なく返されるかと思ったけれど、恵衣くんは無言でスマホで時間を確認すると険しい顔で私を見下ろした。


「まだ早いだろ」

「あ、うん。鬼脈でお買い物してお昼ご飯食べてから行こうかなって思っ──」


言い切るよりも前に般若のような顔で凄まれて口を閉じた。


「バカなのかお前」


はぁぁぁ、といつもより長めのため息。

そんな恵衣くんにうへぇと肩をすくめる。


「禄輪禰宜に言われただろ。お前はアイツに狙われてんだよ。なのに自ら"どうぞ狙ってください"って表に出るなんて馬鹿なのか? いやバカでももう少しマシな動きするぞ。バカ」

「でも迎門の面着けるし……」

「あいつの配下には妖狐族の女がいるんだぞ。お前の匂いなんて数キロ先からでも嗅ぎ分けるんだよ。お前はバカ以上なのか?」