「俺らが来てすぐに"仏壇に手を合わせに来た"って思ったってことはさ、これまでも色んな人がそうやってあの家を訪ねてきたからだって想像できない?」
ふむ、と人差し指の真ん中を下唇に添わせた。
確かにお母さんの口調はどこかうんざりしていて言い慣れた感じだった。聖仁さんの推察でも納得がいく。
「それに加えて、陽太くんの事件は失踪時に十分な証拠……例えば彼の私物や血痕なんかは出ていない。そして空亡戦が重なり、捜査は行方不明の状態で打ち切りになっている。つまり生きている可能性だってまだあったはずなのに、仏壇っておかしくないかな?」
自分と、誰かの息を飲む声が重なった。
聖仁さんの言う通りだ。
陽太くん事件は行方不明のまま捜査打ち切りになっている。もしかしたら彼はまだどこかで生きているのかもしれない。
でもお母さんは"仏壇はないから線香は上げられない"と言った。陽太くんのお母さんがまだ彼の生存を信じているならそんな言い方は絶対にしないはず。
つまり陽太くんのお母さんは、もう陽太くんは死んだものとして扱っていて、周囲にもそう伝えているということだ。
子に愛情を抱けない親がいるのは分かる。もしかしたら陽太くんのお母さんがそうなのかもしれない。それに行方不明になってもう十数年だ、気持ちを整理するためにそうしたのだとも考えられる。
けれどなにか拭いきれない違和感が胸の隅に渦巻いている。



