「初めまして。僕たち昔陽太くんによく遊んでもらってたんです。近くまで来たんで、つい」
女性は「ああ」と少し面倒くさそうに答えて警戒心を解いた。私たちの間を突き進み、アパートの鍵をガチャガチャと開ける。
背を向けたまま答えた。
「線香あげさせてくれって言われても、家に仏壇は置いてないし帰ってくれる?」
「え……」
「それに私これから仕事で、時間がないの」
でも、と聖仁さんが何か言いかけたところで家の奥から一人の男性が怪訝な顔で現れた。
恭子さんを取り囲む私たちをギロりと睨む。
何こいつら、と低い声で尋ねると恭子さんは「何でもないよ、知らない子」と彼を部屋へ押し込んで勢いよく扉を閉めた。
がちゃんと鍵が閉められた音がして私たちは呆然としまった扉を見つめる。
「……なんか、訳アリっぽくね?」
なんだか実習が始まってからその台詞をよく聞いている気がする。
「とにかく進もうか」
聖仁さんの一声で皆が歩き出す。
もう一度振り返ってアパートを見る。
窓の鉄柵に引っ掛けられた男女の二本の傘がかわいた風に揺れていた。



