そんな彼は私たちのクラスメイトである志々尾(ししお)慶賀(けいが)くんの弱みを握って彼を利用し、内通者として私の動向を報告させ私の命を狙っていた。

内通者の発覚や神々廻芽の企みが露見したことで、今本庁や神修がおかれている"まねきの社"は大混乱となっている。

そしてなにより────。



「かむくらの神職が、本格的に動きだしたんですね」


難しい顔で隣を歩いていた禄輪さんを見上げてそう言う。

かむくらの神職────先の戦で最前線で空亡と戦った義勇軍だ。両親も禄輪さんもその一人だった。

答えに迷うように目を泳がせたあと、禄輪さんは目を細めてゆっくりと頷いた。


「巻き込みたくはなかったんだが……今一番重要な人物なのが巫寿だからな。包み隠さず話そう。そうだ、かむくらの神職を再び集めて戦いに向けて動き始めている」


戦い、という言葉に顔を顰めた。

二学期に起きた、鬼一族・八瀬童子(やせどうじ)の里での戦いを思い出す。黒狐(こっこ)族の襲撃により私たちの妖の友達でもある鬼市(きいち)くんの村が大変な被害にあった。

丁度祭りの手伝いで里に来ていた私達もその戦に巻き込まれ、神々廻芽の配下の妖と対峙し怪我を負ったばかりだ。何とか侵攻は食い止めたものの、多数の負傷者がでて建物にも重大な被害が出た。

避難所で傷の手当を手伝っていた時のことを思い出した。痛みに顔を歪める神職さまたち、恐怖で涙する子供たち。

戦の恐ろしさと無意味さを実感した。


二度とあんな光景は見たくない。

けれどもうそんな事を呑気に言っていられるような状況ではない。始まるんだ。